Gartner Research

イノベーション・エコシステムを通じて未来のビジネスモデルに投資し、長期的な成長を推進する

Published: 10 March 2022

Summary

イノベーション・エコシステムを通じたビジネスモデル・イノベーションは、新しいビジネスモデルに投資したり、業界が直面する混乱から企業を守ったりする上で不可欠な能力である。CIOは、リーダーシップ・チームの起業家精神を刺激し、独立したBMI能力を生み出し、4つの重要なステップを習得することができる。

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Overview

動画:イノベーション・エコシステムを通じて未来のビジネスモデルに投資し、長期的な成長を推進する (英語)

大企業の多くは、現在のビジネスモデルの運営と、新しいビジネスモデルの探求・学習・検証の必要性をどう切り離せばいいか分からず、ビジネスモデル・イノベーション (BMI:Business Model Innovation) の推進に苦労する傾向がある。また、イノベーションに対する責任をCIOだけに押し付ける傾向がある。そのため、多くのイノベーション・チームはテクノロジに注力して斬新な素晴らしいアイデアを探求し、「真新しい流行トレンド」を実験するようになっている。

BMIは、主力事業から見えない形で行われたり、IT組織の中でサイロ化されたりしてはならず、全社的な戦略目標の一部として、整合性が確保されなければならない。また、BMIチームには主要なビジネス・リーダーを参画させるべきである。BMIを推進し、未来を創造し、事業を継続するために、CIOは企業のリーダー層に刺激を与え、教育を行う。そして、リーダー層が、多様性の高いビジネス/テクノロジ合同チームとは何かを理解し、これを確立できるようにする。これにより、未来創造を推進する有益なビジネスモデルを探し、検証できるようになる。そのための知見を継続的に探求し、将来のビジネスモデルに関する仮説を立てて検証するには、独立した専用のBMI能力が必要である。Gartnerが「イノベーション・エコシステム」と呼ぶものを通して、このBMI能力を活性化することができる。

CIOは、以下の4つの推奨ステップ (図1参照) に従って協働的なイノベーション・サイクルを構築することで、組織の持続可能な優位性を高められるよう支援することができる。

図1. 将来のビジネスモデルを継続的に計画/創造するエコシステム能力

多様性に富んだビジネス/テクノロジ合同チームを創設する

BMIがテクノロジや過熱的なトレンド、実験に偏らないように、CIOは多様性の高いチームを編成すべきである。ここには、リーダーのほか、異なる実務経歴や視点、そしてビジネス経験とテクノロジ経験を併せ持つ人材を参画させる。スタートアップ企業のように、将来のビジネスモデルを継続的に計画、創造、検証する能力を推進している企業のCIOにとっても、新しいビジネスモデルの機会や計画を徹底的に熟考し、視覚化し、明確に表現するために、このようなチームが必要となる。

最も重要なことは、好奇心が強く、オープン・マインドで、質問する人材 (すべての答えを持っている人材ではない) を探し求めることである。これは、可能性を見つめ、点と点を結んで未来を創造する上で極めて重要である (参照)。

以下のスキルを併せ持つ、ビジネスの人材とテクノロジの人材の組み合わせを特定すべきである。

  • 業界と業種におけるビジネス機会を理解している。

  • 自社のビジネスがどのように機能するかについての一般的な知識を保有している。

  • 進化する市場/業界/消費者トレンドに追随している。

  • テクノロジ・ゼネラリストであり、必要に応じて深掘りできる。

  • テクノロジ・トレンドを入念に調べて理解できる。

  • 新しいテクノロジがビジネスに与える影響を特定できる。

ビジネスモデルとは、組織が価値を創出、提供、獲得する方法を示す青写真である。ビジネスモデルは、「顧客」「価値提案」「能力」「財務モデル」の4つの要素を包含する。GartnerのBMIフレームワークでは、ビジネスモデルの特性と、イノベーション対象として検討すべき関連するオペレーティング・モデルの特性を取り上げている。

このBMIフレームワークは、新しいビジネスモデルの機会とイノベーションを分かりやすく構造的に理解し、市場での収益化の可能性を確実にするための優れたツールである。このフレームワークは、明確なビジョンと、概略をまとめたビジネス計画を設定する際にも役立つ。これはスタートアップの創業者が投資家に実現可能性と規模を売り込む際に活用される方法であり、組織でも同様に使用できる。

また、BMIフレームワークはCIOやチームがビジネスの機会を経営執行チームと取締役会に提示し、実験の可能性を効果的に説明できるようにもする (図2参照)。この図をツールとして使い、イノベーション・エコシステムのパートナーと連携するための出発点を確立できる。

図2. ビジネスモデル・イノベーション

推奨事項:

  • ビジネスとテクノロジの両チームで構成される、多様性の高いバランスの取れたタスク・フォースを編成し、自社の市場や業種における市況、消費者行動、将来的な変化と成長パターンを評価することで、未来に備える (参照)。

  • 自社のBMIフレームワークをツールとして使い、ビジネス機会を特定する。これは後に、経営執行チームと取締役会にプレゼンするための資料として利用できる (参照)。

エコシステムへの多様な参加者を特定する

持続可能なBMIの構築に成功している企業は、組織の外にあるトレンド、アイデア、知見に目を向けている。長期的な成功は、多方面にわたる多様な外部市場参加者を確保してイノベーション・プロセスを補強、加速、拡張できるかどうかで決まる。

評価対象とすべきエコシステム参加者候補には、調査会社、コミュニティ、機関、学校、大学、ベンダー、パートナー、スタートアップ企業、コーポレート・アクセラレーター、インキュベーター、ベンチャー・キャピタル/プライベート・エクイティ企業、主要業界プレーヤー、政府、規制当局が挙げられる (図3参照)。

図3. イノベーション・エコシステムとその多様で流動性の高い人材の能力

カスタマイズしたビジネスモデルによって、特定した機会を実現するために必要となる主要なリソースが明らかになる。そこでイノベーション・エコシステムを活用して、必要となる外部能力を詳しく調べ、引き付け、登用することができる。

多様な参加者は、イノベーションを解き放ち、市場の成長を促す格好の存在といえる。多様性と包摂性の高いチームは、イノベーションを活発にするために必要な非線形の斬新な思考、創造力、適応力を推進する。多様性が平均以上の企業では、総売り上げに占めるイノベーション分野の売り上げの割合が45%高く、それが全体的な財務パフォーマンスの向上につながっている。イノベーション・エコシステムを活用することで、これを迅速に進められるようになる。

イノベーション・エコシステムのパートナーを活用することは、多様性と包摂性をより早く達成したいあらゆる組織にとって、さらに2つの重要なメリットをもたらす。

推奨事項:

  • イノベーションを加速するために、デジタル・ビジネスの課題に対して最善のアイデア (テクノロジだけではない) を特定/計画して、実行する。イノベーション・イニシアティブを加速するためのツール、関連リサーチ、事例について詳しくは、およびその関連コンテンツ参照して、ディスラプションが企業に与える影響を予測/管理する

  • 自社のイノベーションのビジネス状況/能力/大志を分析し、イノベーション・エコシステム用の評価ダッシュボードを完成させることで、イノベーション・エコシステムにおいて新しいモデルの共同学習/解決策作成の推進にどうアプローチするかを決定する (参照)。

  • イノベーション・エコシステム戦略を通して、持続可能なBMI能力を構築する。参加者間における価値交換の方法を決め、多様な参加者を特定し、共有の能力を育成し、エンゲージメント規則に合意し、継続的な測定/モニタリング/改善によって、エコシステムで協働するためのフレームワークを確立する。およびを参照されたい。

市場を洞察する共有の能力を育成する

組織は解決策を重視し、その追求に多くの時間を費やすが、カスタマー・ジャーニーや顧客との接点、顧客エクスペリエンスのイノベーションについて理解するために十分な時間をかけないことが多い。自分たちのレンズや視点のみに基づいて創造やイノベーションに取り組んだり、「顧客からのフィードバック」に頼り切ったりすることはできない。イノベーションとは、テクノロジに執着することではなく、顧客行動にこだわることである。

イノベーション・エコシステムによって、顧客インテリジェンス/知見の共有 (共有知) 促進することができる。これには、顧客が提供する既知の問題と、カスタマー・ジャーニーを舵取りする中で行動やパターンから見えてくる未知の問題の両方が含まれる可能性がある。既存のビジネスモデルを革新して、エコシステムで特定された最新の機会を生かして価値を創造するには、既存の顧客行動のみならず、最新の顧客行動を把握することが極めて重要である。

図4に示す医療の例では、病院のエコシステム内における患者のカスタマー・ジャーニーを評価している。しかし、患者のエクスペリエンスを医療ジャーニー全体で見ると、エクスペリエンスを形成する独自のネットワーク接点があることが分かる。病院のエコシステムは、より広範なエコシステムの一部にすぎない。

図4. ネットワークの中心で顧客との距離を縮める

CIOは、知見のもう1つの大きな実現要素として、エンド・ツー・エンドのカスタマー・ジャーニー・マップ (図5参照) を作成し、人工知能 (AI) や機械学習 (ML) などを使った予測的アナリティクスを活用できる領域を探るべきである。そこから、履歴データやソーシャル・メディアといったソースに言語/ビジョン/センチメント分析などを適用するユースケースを展開することで、知見を強化する。規制対象ではないデータをエコシステムと共有できることも多く (可能な場合)、これによってBMIフレームワークをより正確に作成できるようになる。

図5. エンド・ツー・エンドのカスタマー・ジャーニーにわたるデータから知見を集める

推奨事項:

  • イノベーション・エコシステムを活用して、全接点にわたる顧客の課題を、共有する形でエコシステム全体が理解し、エコシステムの各メンバーが知見にどのように貢献できるかを把握する (参照)。

  • エンド・ツー・エンドのカスタマー・ジャーニー・マップを作成し、AIやMLなどを使った予測的アナリティクスを活用して、知見を強化できる領域を探る (参照)。

  • エコシステム内外のソースから利用可能なすべての共有データ・ポイントを活用することで、解決策の共創を可能にする (参照)。

学習し、実験し、共創する

イノベーション・エコシステムは、多くの業界や業種への参入障壁を下げた。例えば、かつては国家だけの産業であった宇宙コミュニティは急拡大しており、現在ではエコシステムのパートナーシップを通じてアクセスしやすくなった。Microsoft Azure Spaceは最近、深い専門知識と共有知を集めた自社のイノベーション・エコシステムにSpaceXを迎えたことを発表した。また、既存の通信ビジネスの破壊と新しい通信ビジネスモデルの創造に向けて、イノベーション・エコシステムを活用している

多くの業界の企業にとって、変化と歩調を合わせて競争力を維持するには、イノベーション・エコシステムを評価し、BMIプロセスに統合してビジネス・イノベーションを推進することが必要である。知的財産の在り方は、「独占、保護」から「共有」へと変わった。イノベーションは、企業視点のものから、オープン・イノベーションを促す議論へと変化している。

イノベーション・エコシステムには、以下の5つの重要な要素がある。

  • 価値交換

  • 多様な人材と参加者

  • 共有能力

  • エンゲージメント規則

  • モデルの継続的な管理、学習、進化

図6に示すように、BMIを推進する組織には、イノベーション・エコシステムへの参加者の範囲を拡大し、学習/アイデアの創出/解決策の共創/実験のプロセスと、ビジネス・イノベーションのためのオペレーティング・モデルに包含することが必須である。

参加者は、その能力や必要性に応じて、アイデア創出、リーン・スタートアップ、実験といった各段階で出入りすることができる。例えば、アイデア創出では大学をイノベーション・エコシステムに含め、その後、実験を行うためにベンダーにシフトすることができる。また、上述の医療の例のように、業界を超えて顧客接点を特定することもできる。例えば、新規ビジネスモデルの構築を目指す航空会社は、空港、旅行予約サイト、顧客のほか、Uber、Airbnb、Marriott Internationalなどの自動車サービスや宿泊施設からも知見を得ることができる。

図6. すべてを共有知と共創に結び付ける

推奨事項:

  • エンゲージメント規則と、参加者全員との足並みを確保するためのプロセスを確立する (参照)。

  • リーン・スタートアップの概念を利用して、ビジネスモデルに関するアイデアを検証する。リーン・スタートアップでは、「何が可能か」についての一連の仮説から始まり、反復的に実験を行って、プロダクト/サービスを開発する (参照)。

  • 前年比で常に進化と成熟を続けているイノベーション・マネジメント技法を評価/統合することで、イノベーション・プログラムの価値とインパクトを最大化する (参照)。

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Analysts:

Tsuneo Fujiwara

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