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未来の働き方を考える:人材獲得競争に勝利し、組織のパフォーマンスを向上させる

Published: 13 April 2022

Summary

CIOは、ハイブリッド型のワーキング・モデルの導入を求めているが、その設計に問題があれば、IT人材の離職といった状況の悪化が生じる。個人、チーム、顧客のニーズをバランス良く考慮した人間中心のモデルを設計することで、IT組織は希少な人材を巡る競争を優位に進め、組織のパフォーマンスを向上させることができる。

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Overview

ハイブリッド・ワーク (自宅とオフィスなど複数の場で働くこと) が定着している。しかしそれだけでは、CIOが望むビジネス/人材面での成果を達成できない。新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) によってリモートワークを余儀なくされ、多くの労働者は燃え尽き症候群に陥り、より良いワーク・ライフ・バランスを求めるようになった。例えば、「水曜日と木曜日は出社が義務」といった硬直的で画一的なハイブリッド・ワークを設計しても、個人やチームのニーズに対応せず、ビジネス成果を損なう恐れがある。Gartnerの2021年ハイブリッド・ワーク/オフィス復帰に関する意識調査では、適切な人間中心のハイブリッド・ワーク・モデルは、オフィス中心のモデルに比べて、従業員の疲労度、組織に対するロイヤリティ/パフォーマンスの面で非常に優れた結果を生み出している (図1および参照)。

図1. 人間中心とオフィス中心のハイブリッド型の職場設計がもたらす最大のインパクトの比較

人間中心のワーク・モデルは、適切に設計・実装されると、人材/ビジネス面の成果を高められる。しかし、そのためには、働き方を不必要に制限する以下のような時代遅れの仮定を再考する必要がある。

  • 勤務時間:「月曜日~金曜日の午前9時~午後5時」という勤務日程の起源は、工場労働者が自身の作業確認に光が必要であった産業革命初期にさかのぼる。これはもはや不要な制約である。

  • オフィス中心主義:多くのマネージャーは、従業員が自身の目が届くオフィスに来て初めて真の仕事ができると考えている。しかし、パンデミックがこの神話を打ち砕いた。

  • 会議:会議文化は、人々が物理的に集って意思決定を下す必要があった1950年代に始まった。現在は、同期および非同期のコラボレーション・ツールで他者とつながる方法が多数ある。

上記の仮定を削除すれば、より人間中心の働き方を新たに考案しつつ、場所にとらわれない人材を採用して働ける組織能力を引き出すことができる。CIOがハイブリッド・ワーク環境を設計する際は、以下の4つの原則に従う。

  • データを将来の働き方戦略の指針とする:働き方に関する一般的な仮定の多くが間違いであったことが判明している。CIOは、ワーク・モデルに関する意思決定を直感で下すべきではない。

  • 人間中心の職場設計を実装する:効果的なハイブリッド型の職場設計では、個人とチームに加えビジネス部門と顧客のニーズも考慮に入れている。

  • 人材獲得競争に勝利する:IT人材の離職率は他部門に比べて高い。IT組織は、より人間中心の雇用契約、従業員価値提案、優れたワーク・ライフ・バランスによって人材を引き付け、定着させる必要がある。

  • 実験を通じて成果を追求する:今日の前例のない状況では、働き方といった、深く浸透した習慣を見直すことは簡単ではない。CIOは、意図的に実験を行いそこから学びを得て、組織に適した枠組みを見つけ出す必要がある。

データを将来の働き方戦略の指針とする

人間中心のハイブリッド・ワーク・モデルには、多くのCIOが認識する以上の柔軟性が必要である。Gartnerの顧客からは、「週3日の出社を原則としたが、実際に出社を促すにはどうすればよいか」との問い合わせが多数寄せられ。話を聞くと、ハイブリッド・ワークに関するこのような方針は大抵、画一的かつ硬直的な方法で、一方的に決められていた。

データによると、より柔軟な方針であれば、離職率を下げ、パフォーマンスを向上させることができる。Gartnerの2021年ハイブリッド・ワーク/オフィス勤務への復帰に関する意識調査では、柔軟に働けるかどうかが組織への残留の判断に影響すると、IT人材の65%が回答している (図2参照)。

図2. IT人材にとっての柔軟性の重要性

人材獲得競争は幹部レベルの共通の懸案であるが、その激戦区にCIOがいる。Gartnerの2021年8月世界労働市場サーベイでは、IT人材の組織への残留の意向は平均的な従業員に比べて10.6ポイント低く、企業の全部門の中で最も低くなっている。残留の意向が高いIT人材の割合はわずか29.1%であり、逆に、大多数が離職するリスクがある。CIOは、企業の中で誰よりも柔軟性向上を訴える必要があるかもしれない。

データを詳細に捉えると、より大きな課題が分か。例えば、30歳未満のIT人材は、50歳以上と比べて、組織に残留する可能性が3分の1である (図3参照)。18~29歳のIT人材のうち、残留する可能性が高いのは16.2%にすぎない。CIOが高く評価するのは、デジタル化の加速を推進する新しいアイデア、デジタル・ネイティブ・スキル、創造性、そしてエネルギーである。CIOは、離職リスクが最も高く価値が最も高い従業員を特定し、彼らのエンゲージメントと高いパフォーマンスを維持できるようハイブリッド・ワーク方針を調整するために、データ・ドリブンなアプローチを取るべきである。

図3. 残留の意向が高いIT人材 (年齢層別)

実データを入手するという教訓は、地域的なデータにも当てはまる。全世界で見ると、IT人材の29.1%が残留への高い意向を持っているが、地域別では大きな差がある (図4参照)。オーストラリア/ニュージーランド、インド、中南米での割合は大幅に低い。しかし、最も高い欧州であっても、残留の意向が高いのはIT人材10人中4人のみである。

図4. 残留の意向が高いIT人材 (地域別)

問題は、CIOがよりどころとする働き方への直感が今や時代遅れで、あまりにも短絡的な固定概念であり、画一的な仮定であり得るため、注意を要するということである。CIOは、ハイブリッド・ワークへの方針を慎重に設定・実装するために、従業員の意向を直接尋ねることに加え、常に情報収集すべきである。

人間中心の職場設計を実装する

効果的なハイブリッド型の職場設計は、場所中心ではなく、人間中心である。仕事をする場所だけに注力すると、働き方を設計する最大の機会を逃し、人材/ビジネス面の成果を損なう恐れがある。

リーダーが場所を重視する1つの理由は、イノベーションが人同士が偶然に出会ってアイデアを交換するといった、井戸端会議から生まれると信じているためである。このような創造の場が失われることを恐れて、オフィス勤務への完全な復帰を正当化することが多い。しかし、これは一面的な見方である。Gartnerの2021年のハイブリッド型勤務/オフィス勤務への復帰に関する意識調査では、同期的な働き方と非同期的な働き方はチームのイノベーションに等しく、貢献することが明らかになった (図5および参照)。結局のところ、大半の人にとって最高のアイデアが浮かぶのは、シャワーを浴びていたり、犬の散歩をしていたり、運動をしていたりと、何かリラックスしているときであって、度重なる会議や長時間の集中的な作業を行った後ではない。

図5. 非同期作業と同期的作業がチームのイノベーションに及ぼすインパクトの比較

CIOとそのチームは、イノベーションで偶然の発見だけを頼りにするのではなく、意図的に協働する計画を立てるべきである (参照)。そのようにする組織では、チームのイノベーション率が高いと回答する傾向が2.7倍である。意図的な協働では、目的を持って4つの作業様式を組み合わせることが必要である (図6参照)。

  • 井戸端会議のような瞬間を含め、同期的かつ物理的に一緒に作業する。

  • ビデオ通話など、物理的に離れて同期的に作業する。

  • オフィス、カフェ、コワーキング・スペースなど、互いが物理的にくにいるものの1人で作業する。

  • 在宅など、物理的に離れた場所で1人で作業する。

人間中心のアプローチでは、チームが最も効果的に作業して結果を出すために、4つの各協働様式をいつ、どの程度活用するかに関して、チームはある程度自律的に判断できる。

図6. 作業における4つの協働様式

人間中心の設計は、成果を達成するための自律性をより多く与える。アジャイル (プロダクト) チームでの例を考えてみよう。典型的なアジャイルのスクラム開発のスプリントは、2週間の各種の活動やセレモニーで構成され、2週間後には同じことが繰り返される。COVID-19の経験から、成熟したアジャイル・チームは完全リモートでも生産性のある作業ができることが実証された。一方で、ハイブリッド型モデルで、物理的に同じ場所 (コロケーション) で同期的に作業することも、程度は異なるにせよ、チームにとって価値がある(図7参照)。これらの活動は、2週間のスプリントにおける特定の曜日に行われる。第1月曜日にプランニング、第1火曜日/金曜日にバックログ・リファインメント、第2金曜日 (スプリント最終日) にスプリント後のレトロスペクティブ、となる。

図7. アジャイルのスクラム開発のスプリントにおけるコロケーションの価値

企業が、上述の物理的なロケーションを中心とする方針であると仮定する。水曜日と木曜日は全員が出社を求められ、それ以外はリモートワークが可能である。これはハイブリッド型の職場設計だが、個人やチーム、そして基本的なアジャイル型作業は考慮されていない。2週間のスプリントでは、全員が集まる意味がほとんどない曜日に出社を求められ、コロケーションに最も価値がある曜日に在宅勤務が認められている (図8参照)。

図8. アジャイル型のスクラム開発のスプリントにおける、出社義務日とコロケーション価値の食い違い

人間中心の職場設計は、以下によって人材/ビジネス面の成果を引き出す。

  • 長年のプラクティスや直感ではなく、現在のデータに従う。

  • 作業内容の違い (アジャイル開発、サイバーセキュリティ、フィールド・エンジニアリングなど) に柔軟に対応する。

  • 人材とチームに成果達成のための自律性を与える。

  • チームのイノベーションを推進するための協働を奨励する。

人間中心の雇用契約で人材獲得競争に勝利する

多くのCIOは、人材獲得競争を勝ち抜くことができない。Gartnerは、IT組織がオフィス勤務への復帰の方針を示したところ、大量の退職者が発生し方針を撤回せざるを得なくなったという話を聞いている。別のIT組織では、6カ月でハイパフォーマー向けのプログラムへの参加者が30%減少した。

2021年に人材獲得競争が激化したが、それは、経済が再始動し、あらゆるところで柔軟性と報酬が高い職場を求めて「大量退職時代」が続き、圧倒的な売り手市場になったためである。例えば、8月だけで430万人の米国人労働者が離職した。退職率が最も高いのはテクノロジ産業である

特にCIOは、人材を定着させることに苦労している。

  • 2021年のGartner TalentNeuronの労働市場動向では、ドイツ、インド、米国で最も需要が高いスキルはプログラミングであった。

  • Gartnerの2021年応募者パネル・サーベイでは、2021年の内定承諾者のうち、少なくとも他に入社候補企業が2社あった割合は全従業員で49%であるのに対し、IT応募者は76%であった。しかも、採用プロセスは一般的に14週間と長く (2019年は12週間)、新入社員が完全に生産性を発揮するまでに最長で26週間を要する。

つまり、新入社員の立ち上がりは遅いが既存社員の退職ペースが速いため、残った社員が仕事を肩代わりしなければならず、退職を促してしまう可能性が高い。

CIOが従業員を最大限に引き付け、定着させるには、より人間関係を重視した雇用取引で従業員価値提案をリセットする必要がある (図9および参照)。将来の働き方に関する判断に最も影響を与えるのは、図9に示す従業員価値提案の5つの構成要素のうち「根本的な柔軟性」と「包括的な幸福度」である。Gartnerは、従業員にIT組織への参加または残留を促す要因を2010年から追跡している。パンデミック前の約10年間は、報酬が常に最大の要因であった。しかし、2020年第4四半期に状況は変化し、ワーク・ライフ・バランスが第1の要因となった。以降、ワーク・ライフ・バランスは上位2項目の1つとなっている。

多くのCIOが報酬を上げるものの、大半は、最も優秀な人材に対して巨大デジタル企業や大手多国籍企業のような報酬を支払うことはできない。しかし、ワーク・ライフ・バランスでは競合できる。支えとなるのは人間中心の柔軟な職場設計であり、これよって疲労を軽減したり、包括的な幸福度を改善したりできる。

従業員が公平な待遇を感じることによって、組織への残留意識が高まる可能性がある。業務の割り当て、昇進、報酬と表彰、給与と福利厚生は、CIOが公平性の向上を検討して対処すべき項目の一部にすぎない (参照)。

図9. 人間関係を重視した雇用取引のためのフレームワーク

「根本的な柔軟性」は、職場はもとより、働き方のあらゆる側面に加え、現場の労働者にも適用される (参照)。「根本的な柔軟性」は、従業員が成果を上げるための自律性をより多くもたらす。人材の見直しに関するGartnerの2020年従業員調査では、従業員は「根本的な柔軟性」を望んでおり、それによって他者より18%高いパフォーマンスを発揮できる。

「根本的な柔軟性」をハイブリッド型の職場に適用するというのは、個人とチームが仕事で最善を尽くしつつ、顧客/ビジネス成果へのニーズに応えられる最善のポイントを、バランスを考慮しながら見つけ出すということである。

英国の資産運用会社であるSchrodersは、従業員が主体的に柔軟な働き方パターンの設計に取り組めるようにすることで、マネージャーが従業員のニーズを舵取りしやすくしている。従業員は、どのような働き方パターンが効果的か、そして、パフォーマンスや幸福感などの主要な成果にとってリスクがどこにあるかを熟考するよう促される。Schrodersでは、以下の3つの重要項目が従業員とマネージャーのプランニングの指針となる (図10参照)。

  • 個人 (自分の役割) のニーズ:個人としての生産性を高められるよう自分の幸福を実現するにはどうすればよいか。

  • チームのニーズ:チームと連携して共有の目標を完遂するにはどうすればよいか。

  • 顧客のニーズ:顧客の拠点で顧客に会うにはどうすればよいか。ビジネス部門がパフォーマンスの潜在力を発揮できるようにするにはどうすればよいか。

図10. 従業員による柔軟な働き方の判断のフレームワーク

この共感的な人間中心のアプローチにより、従業員とマネージャーは、個人、チーム、顧客のニーズを調和させた働き方パターンを共創できる ( 参照)。

実験に基づく学習ループによって成果を追求する

CIOは、人間中心の職場設計を現実的な期待に基づいて実装する必要がある。このような種類の働き方を再考するに当たっては前例がなく、基準となる公式もない。従業員の姿勢やハイブリッド・ワークの経験、そして、人材獲得競争の力学は進化するため、すべてを一度に遂行することはできない。IT組織は時間をかけて多くを試す必要があり、失敗することもある。実装の難易度が上がっても、CIOは諦めるべきではない。

むしろ、適応力のあるアプローチを取るべきである。最初に、最も不可欠な成果を定義する。これには例えば、従業員の疲労の軽減、残留意向の向上、パフォーマンスの改善といった成果がある。未来の働き方の全体像を模索する際は、これらの成果を指針とする。

これは、一連の学習ループの中で展開すべきである (図11参照)。各ループは「仮説」から始まる。例えば、「出社日をチームが決められるようにすれば、生産性を損なうことなく組織への残留の意向を高められる」との仮説を立てる。リーダーは、意識調査やフォーカス・グループなどを活用して基準値を定めた上で、実験を行う。そして、スキル向上のためのリソース (学習用のビデオ、リーダーからの証言、ベスト・プラクティスを共有するソーシャル・ラーニング・コミュニティなど) を含め、必要なリソースを提供する。

図11. 学習ループを使って「未来の働き方改革」を実施する

そして、規定の学習ループ (例えば30日間) の最終日にはリーダーが基準値に照らしてインパクトを測定し、実験から教訓を引き出すべきである。失敗して新しい試みが必要になるかもしれないし、明るい見通しが示されたなら、実験を調整して再試行すべきかもしれない。このような一連の学習ループを通じて、IT組織は効果的なハイブリッド・ワーク・プラクティスを見つけ、従業員にとっての柔軟性を高めながらパフォーマンスを維持・増大できる。

英国のNationwide Building

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Analysts:

Yuko Adachi

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