Gartner Research

取締役に信頼される同盟者になるためのCIO向けガイド

Published: 08 June 2022

Summary

デジタル化を加速させるためには、CIOと取締役の間に良好な関係が必要である。この関係をビジネス・アドバイザリの役割へと深めていくために、CIOは取締役のビジネス上の優先課題を理解し、それらを前進させる手順を踏まえるべきである。

Included in Full Research

要約

CIOの役割は、10年前と現在では異なる。取締役の耳目を集め、経営幹部の1人として取締役会で定期的に助言するCIOが増えている (図1参照)。

図1. ビジネスモデルの変革を推進するために取締役がCIOと経営幹部のリーダーに期待すること

Gartnerの2022年「取締役の視点」調査 (View From the Board of Directors Survey) において、取締役の83%は、自社のCIOを「信頼で結ばれた同盟者」か「パートナー」のいずれかであると回答している (図2参照)

したがって、CIOが答えるべき真の問いは「取締役とCEOがCIOに次に求めるものは何か」である。取締役とCEOが求めているのは、ITイニシアティブではなく、戦略的なテクノロジ兼ビジネス・リーダーである。

図2. デジタル・ビジネスの問題における取締役のアドバイザーとしてのCIOの影響力

CIOは、取締役やCEOの目に世界がどのように映っているかを考えるべきである。パンデミックの終わりは近いと考えている企業もあが、サプライチェーンの混乱は続いている。多くの国では、より良い機会とより良いワーク・ライフ・バランスを求めて人々が仕事を辞めている。取締役はデジタル・トランスフォーメーションを加速したいと望んでいるが、企業間では希少なデジタル・スキルの獲得と維持を巡って競争が起こっている。ナショナリズムはグローバル化を脅かしている。ESG (環境、社会、ガバナンス) の問題がビジネス戦略に影響を及ぼし始めている。現行世代のリーダーには、物価上昇期に企業を経営しなければならなかった経験がない。企業利益は過去最高の水準に達し、投資家はその継続的な拡大を望んでいる。

取締役やCEOは、「パンデミック関連の重圧がなくなればビジネスの状況は安定する」と思い込まない方が賢明である。パンデミック前の数十年間も、ビジネスの状況は安定していなかった。関税や貿易摩擦、抗議活動、デジタル・ディスラプション、Brexit、ユーロ圏の危機、世界金融危機、SARS (重症急性呼吸器症候群) やMERS (中東呼吸器症候群)、アメリカ同時多発テロなどが発生した。過去20年間で、企業が危機に対応しなかったり、危機後の影響に適応しなかったりしたことはほとんどない。

取締役やCEOは、ビジネス環境の慢性的な不確実性に対処するためにリスク選好度を高めており、企業の柔軟性の向上によってリスクを取ることをCIOに支援してほしいと考えている。Gartnerの2022年「取締役の視点」調査は、CIOがそのために取るべき3つの方法を明らかにしている。

  • 不確実性の中でも企業が成功できるよう備える:CIOはこれまで、内部のオペレーションに注力してきたため、リスクの最小化を試みてきた。現在は、売り上げ創出、顧客拡大、大幅な生産性向上を目指し、不確実性とリスクをビジネスの機会として捉えなければならない。

  • デジタル化の加速を促進する:取締役にとって、デジタル・テクノロジ・イニシアティブは引き続き最優先課題だが、第2の優先課題である「従業員」にCIOが創造的に対処しなければ、同イニシアティブは実を結ばない。

  • 社会問題を優先する:ESGとDEI (ダイバーシティ [多様性]、エクイティ [公平性]、インクルージョン [包摂性]) は、企業戦略に実際に影響を及ぼす存在になった。CIOは、データ/アナリティクスを活用して、これらの領域に関する取締役とCEOの目標を達成へと導く方法を見いだすべきである。

不確実性の中でも企業が成功できるよう備える

取締役は、リスク選好度を下げるのではなく高めることで不確実性に対応している (図3参照)。Gartnerの2022年「取締役の視点」調査において、取締役の57%は、2021年から2022年にかけてリスク選好度が上昇した、または上昇する見通しであるとしており、その割合はリスク選好度が低下すると回答した割合の3倍になっている。取締役は、プロダクトの機能追加やプロセスのデジタル化といった、ビジネスモデルとオペレーティング・モデルの段階的な改善では、企業の競争力を維持できないと理解している。企業は今後、さらに根本的な変革を試行しなければならなくなる。

図3. リスク選好度の高まり

したがって、取締役やCEOは、数年前よりも現在の方が攻めのアイデアを進んで受け入れるであろう。取締役の72%は、リスク、戦略、パフォーマンスを整合させてビジネス・レジリエンスを推進している。CIOは、デジタル・テクノロジでビジネス・パフォーマンスを格段に高める方法を提案すべきである。

提案の中身については、取締役が考える最大のリスクや課題に対処できるよう具体化すべきである (図4参照)。

  • 取締役が考える最大のリスクは、長期的な経済の不確実性であり、サプライチェーンの問題は第3位であった。CIOは、テクノロジの可能性を察知できる能力を生かし、幹部チームがビジネス戦略、ビジネス・ケイパビリティ、バリュー・ストリームを再考できるように支援すべきである。例えば、変化する状況への防衛策としてリアル・オプション戦略を策定するという方法がある (参照)。

  • 競合他社および巨大デジタル企業が引き起こすデジタル・ディスラプションが、それぞれ第2位と5位であった。CIOは、企業のビジネス・コンポーザビリティの拡大や、アジャイルなビジネス・システムの実装を提案することもできる (参照)。ビジネス・アジリティを備えることで、企業は戦略をより容易に変更できるようになる。

  • 第4位は、顧客行動の変化による市場の喪失である。CIOは、デジタル・カスタマー・エクスペリエンスの向上に注力してもいいし、より大胆な手段として、マシン・カスタマーやプログラマブル・エコノミーの受け入れを推奨してもいい (参照)。

図4. 取締役が挙げた2021年および2022年の最大のリスク

「取締役の視点」調査では、取締役とCEOにとって最優先課題になったもう1つのリスクであるサイバーセキュリティについても尋ねた。現在では、サイバー攻撃がビジネスにリスクをもたらすと認識する取締役が圧倒的に多い (図5参照)。この結果は、サイバーセキュリティをテクノロジ・リスクと捉えていた取締役の割合が10人に4人以上であった (そのため、注意に値しないと考えていた) 2016年からの大幅な変化といえる。CIOは、サイバーセキュリティの設計をプロダクトやシステムに当初から盛り込むことに対して、取締役やCEOからの支持を得やすくなる。ビジネス部門のリーダーは、市場投入までの期間の長期化を懸念して、このアプローチに反対することが多い。

図5. ビジネス・リスクと捉えられているサイバーセキュリティ

CIOにとっての優先課題

  • デジタルを原動力とする新たなビジネス・アイデアを四半期に一度、取締役やCEOに提案することで、リスクをビジネス上の機会として扱う。

  • 新しいデジタル・プロダクト/サービスを創出するために、ビジネス、ITなどのスキルを組み合わせたフュージョン・チームの活用を促進する。

  • パフォーマンスとビジネス評価指標を結び付け、新たなアイデアに挑戦して失敗から学ぶ従業員やマネージャーに報いる、強力なリスク受容文化をIT組織内で醸成する。

  • サイバーセキュリティをビジネス・ポリシーやビジネス・プロセスに組み込んで設計するよう主張することで、サイバーセキュリティをビジネス・リスクとして扱う。必要に応じて、取締役とCEOに支持を求める。

デジタル化の加速を促進する

「取締役の視点」調査に回答した取締役は、2年連続で、デジタル・テクノロジ・イニシアティブをビジネス上の最優先課題と回答している (図6参照)。同イニシアティブへの注力は、取締役がパンデミック関連の混乱に対処していることで、2021年以来、継続している。取締役は、デジタル・ビジネスを活用して、パンデミックによる低迷からの脱却を加速させたいと考えている。

調査で明らかになったその他の優先課題である成長やリスク・マネジメントも、デジタル化の加速と関係がある。売り上げ/利益の成長は、デジタル・イニシアティブへの意欲を大いにかき立て。また、デジタル・ビジネスに本腰を入れるほど、リスク・マネジメント能力の向上が不可欠となる。

図6. 戦略的なビジネス優先課題の上位6項目

ビジネス優先課題の第2位である「従業員」は、従業員にとって、そしてデジタル化の加速にとって重要である。多くの国では、パンデミックによって従業員の仕事に対する期待がリセットされた。従業員が求めているのは、より柔軟でストレスの少ない仕事である。多くの人が、より良い労働条件を求めて組織を離れている。例えば、2021年8月だけでも430万人の米国人労働者が離職した。2021年に世界の労働者3万人を調査したところ、41%が離職を考えていた。CIOは、より満足度の高いハイブリッド・ワーク環境を創造すべく、人事部門と連携しながら貢献することができる。

「大退職時代」は、何よりもデジタル化の加速を脅かす。2021年8月世界労働市場サーベイにおいて、IT人材が組織に残留する意向は平均的な従業員に比べて10.6ポイント低く、企業の全部門の中で最も低くなっている (参照)。最も価値のあるデジタル・スキルを持つ人材の離職は、最大のリスクである。したがって、従業員関連の課題を解決しなければ、CIOはデジタル化の加速という目標を達成できない。

CIOが「デジタル化の加速」と「従業員」に単独で対処する必要はないはずだ。「取締役の視点」調査では、企業がデジタル・ビジネスをテクノロジ・プロジェクトではなく、主流のビジネス・イニシアティブとして扱っていることが明らかになっている。取締役の約3分の2 (64%) は、自社の経済アーキテクチャを、デジタル・ビジネスに適したものへと進化させていると回答している (図7参照)。それにより、大半の取締役は顧客エンゲージメントの向上を、また半数の取締役は意思決定や財務実績の向上を期待している。デジタル・ビジネスは、通常の業務と対立する例外的なイニシアティブではなく、企業戦略の標準的な一部となるようトップダウンで進められている。

図7. デジタル経済アーキテクチャ

また、企業の40%はデジタル・ビジネス予算をビジネス部門に移管している (図8参照)。この割合は、グローバルな大企業になると大幅に高い。回答者の3分の1は、デジタル・ビジネスに必要な柔軟性をサポートするために、アジャイルな資金提供/予算編成を取り入れている。また、ほぼ同数は、従来のITプロジェクトのような進捗の測定にならないよう、デジタル・ビジネスの評価指標を変更している。こうしたプラクティスは、デジタル・ビジネスに対するオーナーシップの所有をビジネス部門に促すものであり、成功の鍵となる。CIOは、CEOや幹部リーダーがこれらのプラクティスをまだ採用していなければ、採用するよう働き掛けるべきである。

図8. ビジネス部門に移管されるデジタル・ビジネス予算

CIOにとっての優先課題:

  • 取締役やCEOと連携し、デジタル化に適した予算編成と評価指標を確立することで、各部門のリーダーにデジタル・ビジネス・イニシアティブを推進するよう働き掛ける。

  • 新しいデジタル・ビジネスの機会を提案した上で、ビジネス部門とさまざまなエコシステム・パートナーを結び付けることで、IT部門をデジタル・イニシアティブの「オーケストレーター」に変える (参照)。

  • 企業の財務実績に直接影響を与えるイニシアティブではアジャイル開発チームとフュージョン・チームを取り入れるよう主張することで、「テクノロジ」イニシアティブのビジネス・オーナーシップを受け入れる。

  • 人間中心のワーク設計を作成することで、デジタルに秀でた人材を引き付け、維持する (参照)。

社会問題を優先する

ESGやDEIに口先だけで賛同するのではなく、真剣に行動を起こし始めた取締役やCEOもいる。社会の分極化、持続可能性、ESG/DEIはいずれも、調査を行った取締役が特定した上位6項目の地政学的/社会的リスクに挙げられている (図9参照)。これらの問題は、過去の調査では上位10項目にすら入っていなかった。言い換えれば、取締役はこうした問題の企業への影響を目の当たりにする機会が増え、行動を起こすよう迫られている。結果的に、CIOもまたこれらの問題にどう貢献できるかを考える必要がある。

図9. 地政学的/社会的な外部動向の上位6項目

このような動向がもたらす影響の中には、意外と思われるものもあるかもしれない。取締役の4分の1から3分の1は、投資家や信用格付け機関が企業評価でDEIを考慮すると回答している (図10参照)。DEIは、企業による資本へのアクセスに影響を与える。DEIは欧米だけの懸案事項ではない。北米の回答者よりもアジア太平洋の回答者の方が、DEIが企業に与える影響は大きいと答えている。DEIの具体的な問題は国や地域によって異なる。CIOは、IT組織が業務を行うあらゆる地域のスタッフと請負業者にとって重要な問題について知識を深める必要がある。

図10. 外部のステークホルダーに対するDEIの影響

調査回答者の45%は、毎回または四半期に1回の頻度でDEIが取締役会の議題に上るとしている (図11参照)。取締役は貴重な時間の多くをDEIに費やしていることになる。この点はCIOにとっても、DEIとESGにより多くの時間と注意を費やす理由となる。

図11. DEIが取締役会の議題に上る頻度

社内での取り組みにとどまらず、回答者の30%は、組織が社会問題や政治問題に公に関与しているとしている (図12参照)。企業はこれまで、顧客離れを恐れ、このような問題には口を挟まないという厳格な方針に従ってきた。現在、企業は内部

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Analysts:

Tsuneo Fujiwara

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