実行能力
ガートナーのアナリストは、テクノロジ・ベンダーを、プロセス、システム、手法や手順に関して、
競争力、品質、効率的・効果的であるかどうか、また売り上げ、リテンションと評判の向上といった
観点で評価する。最終的に、クラウドIaaSプロバイダーは、ビジョンを組み込み、成功したといえる
かどうかで評価される。
クラウドIaaSプロバイダーに関する実行能力は、次に挙げる基準で評価される。
製品/サービス: 当該プロバイダーのクラウドIaaSサービスについて、サービスの充実度 (広がりと深
さ) を評価する。ここでは、ガートナーのクラウドIaaSの定義と照らし合わせ、必要な考え方や機能
が、企業の標準として反映もしくは実装されているかどうかを評価する。これらには、セルフサービ
ス・インタフェース、SLA、プロセス、性能、API、ネットワーク、セキュリティなどが含まれる。
SLAについては、ユーザーが当該クラウドIaaSに対する期待値を設定するために重要であることか
ら、その明確さと妥当性を評価する。
クラウドIaaSと呼べるものであれば、サービスはもとより、コンピューティングの部分も重要である
ため、その優位性を評価する。このためには、アーキテクチャが公開されて評価可能になっている必
要がある。
プロバイダーが、バイモーダルのモード1のサービスを十分に提供しているかどうか、また、先進的で
競争力のあるモード2のサービスを提供しているかどうかを評価する
この基準は、時代の潮流に合致し、安定し、充実したサービスを期待し、なおかつクラウドにまつわ
るさまざまな混乱を避けたい顧客や、本物のクラウドIaaSを期待する顧客にとって重要である。
総合的な存続力: クラウドIaaSを展開するプロバイダー自身、および主管となる事業部門の健全性を
評価する。健全性は、ビジネスの現状 (売り上げと成長)、財務状況、組織の存続性、企業における当該
事業部門の戦略的な位置付けなどの観点で評価される。
この基準は、財務状況や組織体制が安定したプロバイダーを期待する顧客にとって重要である。
販売/価格設定: 営業行為の適切性や価格の透明性および競争力を評価する。特に本物のクラウドで
あれば、標準価格が公にされていることは必須要件となる。価格の値下げが継続的に行われているこ
とで評価が高くなるとは必ずしも限らず、むしろ市場の競争を踏まえた戦略や革新による価格改定/
設定について適切に説明できることが求められる。
また、適切な提案活動が行われているかどうかも評価の対象となる。これは、スムーズな営業活動を
求める顧客や、適切な提案と競争力および妥当性のある価格を求める顧客にとって重要である。
市場対応力と実績: クラウドIaaSに関する市場やユーザー・ニーズの変化を迅速に捉え、サービスそ
のものや、戦略ならびに各種マーケティング活動に実装して展開できる能力について評価する。
機能改善/追加のタイミングの妥当性や、予定どおりの実装とリリースも本評価に含まれる。こうし
た変化には、例えば市場状況の変化、すなわちユーザーの変化、競合企業の変化、IT市場や周辺のビジ
ネス環境の変化といったものが含まれる。
ここでは日本市場での利用状況や実績も評価する。
これは、新しいサービスの早期適用や変化に合致したサービスを求める顧客にとって重要である。
マーケティング: クラウドIaaSおよびプロバイダー自身に対するマインドシェア (ユーザーの期待値)
やブランドの認知度について評価する。さらに、具体的なテクノロジや製品に対応するマーケティン
グ・メッセージが明瞭かつ妥当であり、価値が適切に訴求されているかどうかを評価する。
メッセージが過剰に宣伝的でないかどうか、すなわち誇大に表現されていないか、もしくは矮小に表
現されていないか、外部の人が理解/納得できるものになっているか、論理的であるかといった観点
が評価される。ユーザー会を含むマーケティング活動全般における有効性についても評価する。
クラウドについては、基本的に、必要な情報がWebサイト上で公開されていることが望ましいため、こ
の状況について評価する。全般的に、公開されている関連情報の充実度、分かりやすさ (視認性を含む)、
論理性、妥当性、鮮度、アクセスの容易さ、日本語対応の状況も併せて重要な事項として評価する。
ここでは、今回の評価対象となるクラウドIaaSのポジショニングがユーザーから見て明確であるかど
うかも評価する。特に、当該プロバイダーがクラウドIaaSに加えてアウトソーシングやマネージド・
サービスといった類似サービスを提供している場合、それらが明確に分けられ、混在していないこと
が、混乱を避けるためには望ましい。
当該サービスにおいて、プロバイダーの役割と、ユーザーの役割やユーザーが実施すべき責任の境界
が明確であるかどうかも評価する。これらには、運用管理やセキュリティなどの考え方が含まれる。
サービスの競争力、満足度、事例の豊富さなども評価に含まれる。
ここでは、日本市場におけるマーケティング展開において、グローバルと日本の差異を理解し、適切
な調整を行っているかどうかを評価する。
日本のプレーヤーの場合は、グローバル市場の特性の理解度について評価する。これは、日本のクラ
ウドが独特のもの (いわゆるガラパゴス) にならないために重要である。グローバル・プレーヤーの場
合は、日本市場の特性の理解度について評価する。
グローバル・プレーヤーの場合、グローバルとの一貫性を保ちながらも、日本において自立したマー
ケティング活動ができているかどうかを評価する。ここでは、クラウドの本質を理解して説明してい
るかどうか、またその能力を有するかどうかも評価する。マーケティング活動において、業務の棚卸
しと仕分け (松竹梅) といった考えにより、ユーザーを導いていることが望ましい。
さらに、日本市場の課題の1つである、顧客が時代にマッチした洗練されたマインドセットを獲得で
き、また新しいコンピューティング・スタイルを享受できるかも評価する。
これは、認知度が高く、高い実績を持ち、明瞭かつ論理的で妥当性のあるメッセージを展開するプロ
バイダーからの購買を好む顧客にとって重要である。
顧客対応: クラウドIaaS製品を利用する顧客とプロバイダーの関係を評価する。評価には、日本にお
いて、当該プロバイダーとのビジネスのしやすさ、サポートの対応 (チケット、電話、オンサイト、有
償、無償などの対応状況)、評判、顧客満足度、日本語対応、関連する適切なドキュメントの公開と
いった観点が含まれる。
さらに、日本市場の課題の1つである、ユーザーによるクラウドの運転を当該プロバイダーが支援して
いるかどうかを評価する。トレーニングや認定資格、関連書籍の充実度、Webサイトの正確性、充実
度といった観点も評価に含まれる。
これは、クラウドを自分で運転しようとする顧客や、プロバイダーとの関係を重視する顧客にとって
重要である
運営: プロバイダーの企業や組織の運営が、コミットおよび実行という観点で、組織的に信頼できる
ものであるかどうかを評価する。
例えば、リリースを宣言したサービスが予定どおりにリリースされているか、また機能が予定どおり
に実装されているかといった観点で評価される。
これは、有言実行を重視し、かつプロバイダーのロードマップを前提としたサービスの確実な社内展
開を求める顧客にとって重要である。
表1. 実行能力の評価基準
評価基準
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重要度
|
|
製品/サービス
|
高
|
|
総合的な存続力
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標準
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|
販売/価格設定
|
高
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|
市場対応力と実績
|
標準
|
|
マーケティング
|
高
|
|
顧客対応
|
高
|
|
運営
|
標準
|
出典:ガートナー (2019年5月)
ビジョンの完全性
ガートナーのアナリストは、サービス・プロバイダーについて、現状や将来の市場の方向性、イノ
ベーション、顧客ニーズ、競合状況に関する説明を、ガートナーの視点に照らし合わせた形で、いか
に説得力をもって、また論理的に進められるかという点について評価する。
最終的に、サービス・プロバイダーは、どのような市場の力が自社にとっての新たな市場機会を生み
出すかという観点での理解度が評価される。
ガートナーのアナリストは、クラウドIaaSに関するビジョンの完全性を、次の基準で評価する。
市場に対する認識: クラウドIaaSを取り巻く市場の将来的な変化と、それらが社会、ビジネス、ITお
よびユーザー企業に与えるインパクトについて、洞察力をもって理解しているかを評価する。
現在起こっている変化は、歴史的かつ包括的なものであり、これらには例えば、ガートナーが提唱し
ているデジタル・ビジネスやバイモーダルがある。
この基準は、クラウドIaaSを、ビジネスを維持するためのみならず (すなわちマイグレーション先とし
てだけではなく)、ビジネスの成長や革新の基盤として利用し、競争優位を獲得したい顧客にとって重
要である。
マーケティング戦略: 変化する市場の中で、将来的に自社のポジションを拡大できるマーケティング
戦略を有するかを評価する。これらには、ポジションを拡大するための具体的なシナリオ (市場開拓戦
略)、競争戦略、明瞭なメッセージと方向性が含まれる。これらのビジョンやディレクションの展開に
ついては、社外のみならず社内に向けた展開およびその浸透状況も併せて評価する。
日本市場では、IaaSを既存システムの維持とコスト削減の機会として捉えるユーザーが多い。また、
プロバイダーもこうした需要を満たすべく、マーケティング戦略を展開している。このことは、日本
のユーザーのニーズを短期的に満たすものとして評価できるが、これに過度にフォーカスすると、ク
ラウドの可能性を矮小化し、起こりつつあるデジタル・ビジネスや、ビジネスの成長と革新に向けた
クラウドの機会を阻害しかねない。
したがって、本マジック・クアドラントでは、既存システムの維持、すなわち既存システムのマイグ
レーション先としてのIaaSの利用 (リフト・アンド・シフト) に加え、ビジネスの成長や革新に関する
実効性のあるマーケティング戦略を有しているかどうかといった点を評価する。ここでは、中長期的
観点でのマーケティング戦略におけるバランスが重要となる。
この基準は、将来の方向性を明確に示し、いずれ競争優位を獲得して維持するであろうプロバイダー
を好む顧客にとって重要である。
販売戦略: 将来的に、プロバイダーが、日本国内で直販や間接販売によって、自社のポジションを拡
大できる営業戦略を有するか、またその有効性を評価する。
この基準は、将来的に積極的かつ適切な営業活動を期待する顧客にとって重要である。
製品/サービス戦略: 将来的に、クラウドIaaSに関する機能、性能やサービスの競争優位性がどうな
るかと、ユーザーにとって魅力的なものとなるかどうかを評価する。
クラウドIaaSに求められる要件に加え、市場理解として市場のトレンドをどのように捉え、サービス
に反映するかを評価する。ここでは、具体的なロードマップを有しているかどうかも評価される。
ガートナーは、クラウドIaaSであっても、「ビジネスの維持のための安定性」だけでなく「ビジネス
の成長と革新のためのイノベーション」の両立が重要であると考えている。この意味では、安定だけ
を重視するあまり、将来的な発展の可能性が限定的であるレガシー・テクノロジを維持するだけの
サービス戦略については、評価が下がることに注意されたい。この基準は、機能、性能、サービスといった観点で、将来的に業界をリードできるプロバイダー製品
を利用することで、ビジネスの維持、成長、革新を達成したいとする顧客にとって重要である。
ビジネスモデル: 将来的に、当該プロバイダーのクラウドIaaSが、責任事業部門だけでなく、サービ
ス部門、ソフトウェア部門といった関連部門、さらにはパートナーとの連携を深め、組織横断的な取
り組みにより、自社の市場ポジションを拡大できるようになるかどうかを評価する。また、自社の
SI、運用、アウトソーシングといった既存事業とのカニバリゼーションに関し、企業全体のビジネス
モデルとして折り合いがついているかどうかを評価する。
加えて、ユーザー企業のビジネスの成長を支援するために、一部門のみならず企業のビジネス戦略と
して推進しているかどうかを評価する。
この基準は、クラウドIaaSの戦略、計画、実装、テスト、運用といったシステムの導入ライフサイク
ル全般を包括的かつ安定的なものとして契約したい顧客に重要である。
すべての案件や契約が「カスタムのSI」として展開され、結果として当該クラウドIaaSサービスの存
在が弱くなるようなケースは、本マジック・クアドラントでは逆に低い評価となることに注意する必
要がある。
業種別戦略:プロバイダーが、金融、製造、流通、通信、政府といった特定の産業において、クラウ
ドIaaSとソリューションに関して有効な拡大戦略を有し、将来的に自社のポジションを強化/拡大で
きるかどうかを評価する。
この基準は、業界ごとのベスト・プラクティスを求める顧客にとって重要である。
革新性: クラウドIaaSそのものと、また、特に日本において企業のビジネスやインダストリ・イノ
ベーションをリードおよび実現できるかどうかについて評価する。
また、戦略的な開発投資の状態と方向性について評価する。従来型の投資に加え、市場変化への投資
が求められる。従来型の投資の対象には、プロセッサ、OS、仮想化、ITオペレーション、ネットワー
ク、セキュリティ、データセンターなどがある。市場変化への投資の対象には、クラウド管理プラッ
トフォーム、モバイル、AI、アナリティクス、IoT、サーバレス、コンテナ、マイクロサービス、サー
ビス・メッシュおよび新たなセキュリティなどが含まれる。
リソースとしては、金銭面での手当はもとより、エンジニアリング・リソース、買収、パートナー
シップと提携なども含まれる。
この基準は、最先端テクノロジの開発/提供能力と、プロバイダーのエコシステムの強みに注目して
いる顧客に重要である。
地域戦略: グローバル・プロバイダーが、クラウドIaaSに関する日本市場への展開について、将来
いっそう効果的に機能する拡大戦略を有するかどうかを評価する。日本のプロバイダーについては、
日本以外の地域で将来的に市場を拡大できる能力を有するかどうかを評価する。
それぞれのプロバイダーにとってのチャレンジは、グローバルで一貫した戦略を保ちながらも、特性
の違う日本とその他の市場に、いかに適合し、市場を拡大するかである。
この基準は、グローバルに展開しながらも日本の特性を理解し、柔軟な対応を期待する顧客に重要に
とって重要である。
表2. ビジョンの完全性の評価基準
評価基準
|
重要度
|
|
市場に対する認識
|
高
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|
マーケティング戦略
|
高
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販売戦略
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標準
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製品/サービス戦略
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高
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|
ビジネスモデル
|
高
|
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業種別戦略
|
低
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革新性
|
高
|
|
地域戦略
|
標準
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出典:ガートナー (2019年5月)
クアドラントの説明
リーダー
リーダーは、日本市場において、外部 (顧客) と内部 (プロバイダーの組織) が理解できる明快かつ実行
可能なビジョンを有する。自ら市場のフロンティアを創造し、自社を他社と差別化しようとするプロ
バイダーである。
リーダーは、発展段階にある変化、例えばサーバレス、コンテナ、マイクロサービス、サービス・
メッシュ、DevOps、CI/CD、サイト・リライアビリティ・エンジニアリング (SRE)、デジタル・ビジ
ネス、バイモーダルIT、IoT、AI、ブロックチェーンといった新しいトレンドに製品を適合させるべく、
クラウドIaaS市場の中で、自社を競合企業から差別化しようとしている。
リーダーは、高い市場シェアを有し、顧客に対してクラウドIaaSの真の価値を継続的に訴求している。
リーダーは、テクノロジ・イノベーションによって自社を他社から差別化する。結果として、リー
ダーは、将来的にクラウドIaaSの領域を超え、コンピューティングやビジネスの在り方そのものに破
壊的なインパクトをもたらす可能性を秘めている。
ほかのベンダーと比較したリーダーの顧客満足度は総じて高く、評判や市場における総合的な活動は
そのリーダーシップをサポートするものとなっている。
一方、リーダーであっても、将来、この市場において不安定化の脅威に直面する可能性もある。
チャレンジャー
チャレンジャーは、現在の市場において、クラウドIaaSに求められる要件、特に、既存システムの要
件を満たすサービスを安定的に提供し続けているプロバイダーである。当該市場における利用の割合、
顧客満足度、評判、実際の振る舞いも総じて妥当である。
一方、チャレンジャーは、サービスの安定性にフォーカスしているものの、テクノロジとサービスの
イノベーションについては、それほどのフォーカスが見られない。顧客は必ずしも不満足ではないが、
テクノロジやサービスによるビジネスの成長および革新や変化への対応を求めるユーザー企業からは、
その在り方が問われる状況にある。
2019年版のマジック・クアドラントには、チャレンジャーは存在しない状況となっている。
概念先行型
概念先行型は、市場の将来を予見し、未来に向けた野心的なビジョンを有し、自社を他社から差別化
するユニークなテクノロジとサービスの開発に対して継続的に投資を行っている。
先進性は評価でき、クラウドIaaSとしての実績も次第に拡大傾向にある。しかし、概念先行型は、採
用率が競合企業と比べてそれほど高くはなく、ユーザー企業のイニシアティブにおける存在感は発展
途上にある。
特定市場指向型
特定市場指向型は、特定のクラウドIaaSに求められる要件を満たしており、これまでも優れた実績を
残している。しかしながら、顧客経験はある程度限定的であり、採用率はそれほど高くなく、売り上
げも相対的に低い。革新的かつ大胆なテクノロジが期待されたとしても、実行能力についてはいまだ
高いといえる状況ではない。
なお、企業の特定のニーズに焦点を当てた場合には、この特定市場指向型のプレーヤーが候補になり
得る。